コーチング, コミュニケーション, チキンな上司が読むところ, パワハラ, マスコミ, 処世術, 思考術, 本編のための序章, 編集者と喧嘩

ちなみにその上司は超エリート。

学歴、入社してからの経歴は申し分ありません。

その辺のプライドもとても高く、

自分と仕事をする人間は、自分と同等か、それなりに頭がキレる人物じゃないと、

ジメジメと真綿を締めるようないじめに入るそうです。

最初はいじめに気づかない感じで無理難題を要求しておいて、

その要求に一つでも答えられないと、

無能のレッテルを貼る。

 

そのパターンで、かつてフリーの記者を一方的なパワハラで干したという噂もある人物です。

そのフリーの記者はなぜ干されたかというと、

若い頃に結構なレベルのやんちゃをしていたそうで、

そのことがどうもその上司には気に入らなかったみたいで、

頭ごなしに叩いておこうという意思があったのではないかと。

私はその記者のことをよく知っております。

彼はもちろん更生して、記者という仕事に真面目に取り組んでおりました。

仕事もかなりできる。はっきり言って有能。

少なくとも私の目には、

編集者にとって、かなり“使える記者”という印象です。

でも、その上司は彼を決して認めようとはしなかったそうです。

「昔、悪かった人間がいくら更生したと言っても、根底に悪が根付いている。そんな記者は危険だ」

そんな持論を周囲に展開することもあるそうです。

 

それを聞いたわたしは何を思ったか?

 

「おれ、めっちゃ嫌われるじゃん」

でした。

だって、わたしはわずか1年半で会社員をドロップアウトした人間。

グレたこともなければ、悪さをする勇気すらない軟派者の半端者。

チキンの代表格だと自負する男であります。

「過去に会社をドロップアウトしたような人間は、必ず追い込まれると逃げる」

そう思われても仕方ありません。

こりゃ、厄介だわい。

 

そして、いざ初めての仕事を一緒にした時のこと。

 

その上司は、物腰は非常に柔らかいのですが、

言葉は鋭利な刃物のように鋭く、簡潔に明瞭に話を進める印象です。

さすが、頭がキレるという噂があるだけの人だなと思いました。

その情報をどのような形で記事にすればいいのか?

そのためにはどのような取材が必要で、

そのためには今からどのように動くべきなのか?

取材過程で違う方向に進んだ場合、どのように修正するか?

それとも新しい展開で記事を作るのか?

わたしが取材をした情報を元に一つ一つ丁寧に打ち合わせをしっかりやって次に進む。

その過程で、何かパワハラを受けるとか、無理難題を押し付けられるといったことは全くありません。

確かに、常に緊張感を持っていて、無駄な話も一切しない。

こっちも常に頭をクリアにしておかなくてはならないので、かなり疲れるのですが、

むしろ、わたしにとっては、やりやすい上司だなと思ったほどです。

しかし、突然、彼の態度が変わる瞬間がありました。

それは、わたしが取材で得た情報が彼の思い描いていた情報とは違っていた時でした。

「そんなはずないんですよね。ここまで取材を進めてきて、そんな情報が入ってきても困るんですよ。むしろその情報はいらない。記事にするためにはその情報とは全く逆の情報が必要なんです。なんとかその情報を持っている人物を探してその情報を引き出してはくれませんか?」

 

なるほど・・・こういうことか・・・・。

 

無理難題とは、こういうことだったのです。

8割型取材が終わった段階で、彼の中にある程度のストーリーが出来上がっていました。

しかし、全く真逆の情報が入ってきたのです。

当然、その情報を無視するわけにはいきません。

その情報が入ってきたことによって、今まで正しいと思われた情報も一から精査しなければなりません。

それよりも何よりも、

自分の描いたストーリーじゃなければ、面白い記事にならない。

だから、

「面白いストーリーに必要な情報を集めろ。いなければ探せ。何としても」

と、いうことなのです。

これは、現場の記者にとってはたまりません。

でも、編集者が決定権を持っているので、理由なくその判断を覆すこともできません。

わたしは、彼がなぜそのストーリーにこだわるのか?

最初から考えてみることにしました。

全ての資料をもう一度読み直して、彼がどのタイミングでどのようなことを要求してきたか?

どこで、わたしは「あれ?なんかおかしいぞ?」と、感じたか?

 

その過程で、「ん?」あることに気づきました。

 

そもそも元になっている情報の資料の数字を彼が読み間違っていたのではないか?

 

つまり、企画の最初の時点で、彼は情報の元になっている数字の意味を間違えているんじゃないか?

 

そんな単純なことでした。

 

しかし、もし仮にそうだとしたら、そもそもの企画自体。最初の話自体が違う話になる可能性が出てくるのです。

つまり、大間違いの大失態です。

「こんなことってある?」

絶対に見誤るはずのない数字を間違っているなんて、想像だにしていませんでした。

いわゆる、単純ミス。

間違えるはずがない。という、思い込みから誰も確認しないまま放置され続け、

結果、重大な間違いに気がつく。その時にはもう遅い。

そういうパターン。

優秀な大企業に起こりがちなパターンですね。

 

わたしは、この間違いは彼に伝えなければいけません。

だからと言って、一度動き出した企画をボツにするわけにもいかないのです。

話はそれほど単純ではありません。

間違いを伝え、それでもボツにせず、記事にできる方法は何か?

 

記事にできる方法はありました。

上司が望んでいたような大スクープという形にはなりませんが、違う視点で書くことはできるのです。

この点については、彼であれば、間違いにさえ気づけばすぐに修正できると思いました。

 

あとは、間違いの伝え方でした。

 

わたしは、資料にある数字を鉛筆で薄く囲み、その下に上司の口にした数字を書き、

それを同じように丸で囲んで、どちらの数字にも(?)をつけました。

そして、彼のデスクへ行き、

「ちょっとよろしいですか?」

「なんですか?」

「この資料のこの数字なんですが・・・・」

「・・・・・・・」

彼の目がキッと見開かれ、

「ちょっ・・・・ちょっと待ってください」

「いや、僕も今気がついたんで、ちょっと混乱しているんですが」

「あれ?ちょっと待っていただけますか?」

彼はそう言って資料を持って編集部から出て行きました。

30分ほどして戻ってきた彼は、わたしのそばに椅子を持ってきて座り、ものすごい小声で、

「すみません。わたしが数字を完全に見間違えていました。わたしのミスです。本当に申し訳ありません」

「いや、僕も今の今まで気づかなかったので。申し訳ありません」

「いえ、これはわたしのミスです。でも修正はできます」

「ですよね」

「はい。わかりますよね?」

「もちろんわかります」

わたしは、彼が考えている記事の方向性を説明しました。

「そうですね。それしかありませんね」

「僕もそう思います。じゃあその線で取材を進めてもいいですか?」

「はい。ありがとうございます。本当に早急に進めていただけますか?それと、さっきお願いしたことはなしということで」

「はい。了解しました」

結局、本来その記事を入れる予定にしていた発売号ではその記事は入りませんでした。

 

彼がどのように編集長に説明をしたのか、わかりません。

でも、その次の号では、記事を入れることができました。

 

彼がわたしのことをどう思ったか?

それもわかりません。

ただ、彼の方から積極的にわたしに話しかけてくることもなかったし、

だからと言って避けられているということもありませんでした。

結局、それが彼とわたしが一緒に仕事をした最初で最後となりました。

 

ただ、あの時のあのやり方以外に正しい方法はなかったと思います。

 

人には個人差こそあれ、少なからずプライドがあります。

 

プライドを傷つけないということはとても難しいことです。

 

でも、

こちらが傷つけないように配慮をすれば、

勘のいい人は気づきます。

 

パワハラをするような人物は、決して勘は悪くありません。

 

当然、そのような配慮をしてもらったことに気づきます。

力の弱いもの。気の弱いものが強いものと対等に戦えるようにするためには、

このような方法が一番なのではないでしょうか。

 

次号に続きます。

 

最後まで読んでくださってありがとうございました。