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パワハラ野郎のキレ方は、まるで三流演出家 兼 三流役者

 

 

副編集長ネタの大スクープ記事の取材を任されたわたしでしたが、

ターゲットを特定できず、写真を撮ることもできなかった。

我々取材チームは、撮り逃がしているはずがない。

そう確信していましたが、副編集長は、

「ターゲットの写った写真はなかった。説明しろ」

そう言います。

 

わたしは会社に向かいました。

すでに、もう一人の若い記者が来ていました。

「やばいですね」

「本当に撮れてなかったら仕方ないさ。黙っているか、謝るしかない」

「でも、撮れてないはずないんですよね。そう思いませんか?」

「そう思う。おそらく、編集部とネタ元との確認の段階で齟齬(食い違い)が起きてる。それしかない」

「でも、もう決めつけていますよね」

「フリーの我々に全ての責任を押し付けるのが一番、楽だからね。最悪切ればいいんだから」

「そうなりますか?」

「そうなるのがこの世界だよ」

 

副編集長が、編集部のど真ん中にあるソファーにわたしたち二人を呼びます。

テーブルの上にはすでに数百枚の写真が置かれていました。

副編集長は静かに話し始めました。

「担当編集者がネタ元に写真を持って行ったんだよ。ターゲットはいないってよ」

こちらの目を見ずに、俯き加減に静かに話し始めます。

わたしには、すでに芝居がかっているようにしか見えません。

こちらの目をキッと見据えるタイミングをはかり、

突然、声を荒げ、こちらをビクッとさせ、

怯えた表情を見てドーパミンを一気に噴出させる。

 

パワハラ野郎の演出なんて、だいたいこんなもんです。

三流演出家 兼 三流役者

 

猿のオナニー

 

「担当編集は写真を全部見せたんですか?」

「そんなの当たり前だろうよ」

「担当編集は今日はいないんですか?」

「別件で出てる」

「連絡を撮ってもらえませんか?本当に全部、見せたんですか?撮れてないはずないんです」

ドーン!!!!

副編集長は、突然、目の前のテーブルを思い切り蹴り、立ち上がって、

手にした写真の束をテーブルに叩きつけました。

「編集のせいにすんじゃねえよ!!!」

「・・・・・・・・」

 

編集部内全体の空気がピーンと張り詰めました。

皆が聞き耳を立てた瞬間です。

(あ〜、風さん、何かやっちゃったんだ〜。何やったんだろう?)

この空気感で満たされると副編集長のドーパミンが一気に噴出します。

なんせ、見せ場ですから。

さあ、猿のオナニーの始まりです。

 

正論の後出しジャンケン

 

「全部見せない編集者がどこにいるんだよ!見せたに決まってるだろうが!」

「そうですか・・・・・、すみませんでした」

「すみませんでした?そんなんで済む問題か?」

「すみません・・・としか。本当に申し訳ありません」

「どこで見逃した?」

ここからは、捕らえた獲物を食べる前に弄ぶ肉食獣と同じです。

「居眠りしたか?」

「してません」

「どっかで目を離したんだろ?」

「それは絶対にありません」

「絶対にあり得ないことが起きてんだよ!!」

「・・・すみません」

「飯は?食ったんだろ?」

「食べました」

「みんな仲良くランチに行ったのか」

「行ってません。交代で食べました」

「交代だろうがなだろうが飯食ってんじゃねえよ!!目が離れるだろうが!!」

「ちゃんと交代で食べましたから」

「目は確実に減るよな。な?」

若い記者に聞きます。

「・・・・そうですね」

「そうです?そこだろうが!見逃したのは!トイレは?」

「行きました」

「行くんじゃねえよ!!!飯食って飲みもん飲んでトイレ行ってんじゃねよ!そんなことしてたらいくらでも見逃すだろうが〜!!!!お前ら仕事舐めてんのか!!」

「・・・・・」

もう返す言葉もありません。

こうなったら、何を言っても火に油を注ぐだけ。

嵐が過ぎ去るのを待つのみです。

「俺らの仕事はお昼休み、トイレ休憩のある仕事じゃないんだよ。一体何年この仕事してんだ?なあ風よ。こんなにたくさんの人の中からターゲットを探さなくちゃいけないのに、どうして飯食おうなんて発想になるよ。昼飯食わなくても死なねえだろうが。腹減る時点で緊張感がない証拠だろうが。俺が現場にいても飯食ったか?食わねえだろう?俺がいたら絶対にそんなことさせねえよ。お前ら甘いよ。仕事を舐めてるよ。最悪だよ」

全くの正論です。

これを、

正論の後出しジャンケン

と、言います。

 

例えば、もしきちんと写真が撮れていて、わたしが、

「お昼も食べないでずっと見てましたよ」

そう言うと、おそらく彼はこう言ったでしょう。

「ご飯くらいの休憩はとってもよかったんだぞ」

「トイレも我慢したんですよ」

こう言えば、

「そりゃ病気になるよ。そんなことしたら体がもたないぞ。いいんだよ、普通にやれば」

そう言ったでしょうね。

失敗したら、

生理現象まで失敗の原因に持ちだす。

そして、

「もし、俺がいたら」「俺だったら」

「そんなことやらなかった。やらせなかった」

これ言っちゃあ、陳腐さ丸出しで、とても格好悪いんだけど、

言ってる本人は、気持ちよくてたまらない。

こちらはそんな陳腐さに屈服させられている。屈辱で耐えられない。

その雰囲気が、

周りが聞けば、100パーセント我々の方が悪い。そう聞こえる感じにさせてしまうのです。

これ、パワハラ野郎の典型的な戦法です。

 

「明日からお前ら来なくていいや」

「すみませんでした」

 

ソファから離れたところで若い記者が聞いてきました。

「僕たちクビですか?」

「クビにはなんないでしょう」

「納得できませんよ。僕たちには全く落ち度ないじゃないですか?飯食ったか?って。無茶苦茶ですよ。飯食ったけど見逃してないですよ絶対」

「そうだね。でも、上の判断だからな〜。明日から休めるじゃん」

「休むんですか?」

「休むよ。だって、来るなって言ってたじゃん」

「このままクビになったらどうするんですか?」

「こんなことでクビにするような会社にいたいか?そんな会社、長くないよ」

「いや、こういう会社が長く続くんですよ。トカゲの尻尾切りが上手な会社が」

「そうだね。その通りだね。俺らはトカゲの尻尾だから仕方ないよ」

「本当にどうするんですか?」

「明日、ライバル誌の早刷りが出るだろ?それを観れば、結果が出るよ」

“早刷り”とは、発売日前日に同業他社に配布される本のことです。

書店に並ぶ前日の午後いちに各出版社に届くのです。

 

次号に続きます。

 

最後まで読んでくださってありがとうございました。