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立場が逆転しても敗走者を追い詰めない

 

翌日のお昼過ぎ、副編集長から電話が入りました。

ちょうど、ライバル誌の早刷りが編集部に届いた時分です。

「ライバル誌に男の写真が載ってたぞ。やっぱり来てたんだな。そして、お前らは撮れなかった」

「その人物は、我々が撮った写真の中にありませんでしたか?」

「だから、ねえんだよ!!撮れてねえもんは撮れてねえんだよ!!覚悟しろよ」

彼はそう言って、一方的に電話を切りました。

 

撮れてない・・・・・。

 

 

う〜ん。

 

 

やっぱり、納得できない。

 

 

わたしは、若い記者と連絡を取り、会社に行きました。

「何しに来たんだ!?」

そう言われるかもしれない。でも、確認しないわけにはいかなかったのです。

編集部には担当編集も副編集長もいませんでした。

 

ライバル誌を手に取り、件のページを開きます。

『巻頭スクープ』と題した特集記事だったのですぐにわかりました。

モノクログラビアで見開き2ページの大きな写真がドーンと掲載されていました。

ゴルフをするターゲットの写真が載っていました。

「こいつじゃないですか!!」

若い記者が声を荒げます。

「こいつ!撮ったじゃないですか。しかも、俺らが一番怪しいと言ってた奴じゃないですか!ふざけんなよ!!!なんだよこれ!!!」

「どういうことだろうね?」

「担当編集に言いましたもんね。こいつがどう考えても一番怪しいって」

「言ったね。担当編集に聞かなきゃわからんね」

わたしは担当編集の携帯電話にかけます。しかし、担当編集は電話には出ません。

今更、わたしの方からかけても仕方がないと思っていたので気にしてなかったのですが、

考えてみれば、彼は前日から一度もわたしのところに電話をかけて来ていませんでした。

仕方がないので、副編集長の携帯電話にかけてみました。

電源が入っていないという音声が流れます。

わたしは、留守番電話にメッセージを入れました。

「ライバル誌に載っていた写真は我々も撮っています。一番、怪しい人物として枚数も一番たくさんあります。どうして、確認できなかったのでしょうか?折り返し、ご連絡いただけますでしょうか。よろしくお願いします」

「どうします?」

若い記者が聞きます。

「仕事しよう。謹慎しなきゃならん理由がなくなったわけだし、これで我々にはなんの落ち度もないことがわかった。だから、普通に仕事しよう」

「謝って来ますかね?」

「人として、きちんと謝罪をするのが筋だけどね。どうだろうね。なんで携帯に二人とも出ないのかわからんけどね。期待はできないかもね」

「いいんですか?俺は腹が治らないです」

まあ、俺らも失敗することあるわけだし、貸しを作った気持ちで入ればいいじゃん。謝って欲しいとは思うけど、謝らないだろうな〜」

 

それから、もう一度だけ、二人の携帯にかけてみました。

しかし、二人とも電話には出ません。

「謝らなかったらどうします?」

「何もしない。

敗者を追い込めるようなことはしない。

“窮鼠猫を噛む”だから。

力を持っているのは向こう。

力を使えば、悪も正義になる。

正義も正義じゃなくなる。

会社ってそういうところじゃん」

 

「まさか、逃げるなんてことはしないですよね」

 

まさかね・・・・。

 

保身のためなら、敵前逃亡もお手の物

 

夜8時を回ったころ、着信がありました。

担当編集からでした。

「メッセージを聞きました。すみませんでした。僕のミスです」

「・・・・・どういうこと?」

「いただいた写真の中から、怪しいと思った人物を5人だけ選別してネタ元に見せました。その中にターゲットの人物を入れてませんでした」

「ん?ごめん。意味がわかんない。俺、ターゲットの人物が一番怪しいって言ったよね。覚えてる?」

「はい。でも、写真をネタ元に見せる前にもう一度、ネタ元と電話で話して特徴を聞いたら、ターゲットはネタ元の言っている特徴と違っていたんです。だから、こいつは違うだろうと。思い込みで判断してしまいました」

「ただ見せるだけなのに?独断で選別したということ?」

「すみません」

「副編集長には全員見せたって言ったんでしょう?」

「言いました」

「でも、5人しか見せてない?」

「はい」

「なんでそんな嘘ついたの?」

「すみません」

「いや、すみませんじゃなくて、どうして見せなかったの?」

「自分の思い込みです」

「それなのに、副編集長にはどうして全員見せたって言ったの?」

「すみません」

「いや、すみませんじゃなくて」

「・・・・・・・」

「で、副編集長には、そのこと言った?」

「言ってません」

「なんで?俺らのミスのままってこと?」

「・・・・・・」

「それは、おかしくないか?」

「そうですね」

「ちゃんと本当のこと、言っといてくれる?」

「はい。言います」

「そうだよ。言わなきゃダメだよ。ちゃんと自分で責任取らなきゃ」

「もちろんです。わかってます」

「わかってる?本当に?」

「わかってます。すみませんでした」

 

結局、その晩、副編集長から、折り返しの電話はありませんでした。

 

翌日、会社に行きましたが、副編集長の姿はありません。

 

事務の人に聞くと、

「昨日からローテーション休みで海外旅行に行ってるよ」

「は?昨日からですか?昨日、電話がありましたよ。お昼頃」

「それくらいまでは会社にいたけど、そのあとすぐに帰ったからねー」

「でも、海外に行っても携帯は持って行ってますよね」

「普通はね」

 

結局、一週間待っても折り返しの電話はありませんでした。

 

そして、一週間が経ちました。

 

副編集長は、もう仕事に復帰しているはずです。

私の留守電は確実に聞いています。

おそらく、担当編集から報告も受けているでしょう。

にもかかわらず、電話はありません。

 

さて、どうしようか?

 

続きは次号です。

 

最後まで読んでくださってありがとうございました。